グリーン・ニューディール

グリーン・ニューディール―オバマ大統領の科学技術政策と日本

グリーン・ニューディール―オバマ大統領の科学技術政策と日本

オバマ大統領の科学技術政策(グリーン・ニューディール)を識者たちが詳細に解説した本です。JSTの理事長である北澤先生が書いた第1章が全体観を掴むのに良いです。第2章は,各識者たちがそれぞれの観点から論じているので,多面的な見方の参考になります。

メモ

第1章 日米のグリーン・ニューディール(北澤 宏一)

p.13

第一次から三次産業が作り出す既存の価値に対するニーズが飽和しているとすれば,今後のイノベーションは新たな価値,すなわち「第四の価値」を社会の中に追及せねばならない。このことは「大量生産・大量消費」の反省に立ち,教育や文化,仲間や地域,環境といったより高度な社会のニーズに向けての内需拡大,すなわち,生き甲斐としての新たな価値を見出し,新たな消費者がそれを購入する,という経済的な動きを作り出していくことを意味する。

p.26

科学技術は世界を相手にする競争である。世界のトップの成果でなければ意味を持たない。世界のトップに躍り出ると,研究から生じる新たな知見はすべてオリジナリティーが生じ,知財としての価値が生じる。追いかけるレベルでの知財創出は不可能ではないが苦しい。

p.30

近年,日本でもNPO活動が活発化し,団塊の世代の人たちが退職後様々なボランティア活動やNPO活動を始めている。このような傾向を支援する方向の本格的な政策が第四次産業の成長を促進できるであろう。

第2章 有識者が見るオバマ大統領の科学技術政策

p.42(相澤益男)

オバマ大統領の変革の中核は,「グリーン・エコノミー政策」である。日本では,「グリーン・ニューディール」と喧伝され,大きなインパクトを与えている。しかし,オバマ大統領自信は,この表現は用いていない。

p.52(飯田哲也

スマートグリッドは新しい技術領域だが,いわゆるハイテク技術開発競争とは異なる。技術面での革新はもちろん不可欠だが,それと同等以上に重要なのは,組織・制度面での革新である。

技術の上位レベル(メタレベル)の側面が極めて重要になる。

p.55(飯田哲也

環境エネルギー技術をめぐる政府の役割が「ディベロップメント」(開発)から「ディプロイメント」(普及)へと大きく転換したことを示している。

p.68(大歳卓麻)

「パルミサーノ・レポート」において,イノベーションとは「インベンション(発明)とインサイト(洞察)の融合」であると定義されている。イノベーションとは技術革新に留まる概念ではなく,社会変革をもたらす革新的なアイデアの実現を指す。

p.138(土井美和子)

二十一世紀型の実空間知は,携帯電話や自動車に搭載されたGPSや,小包や衣類などのタグや携帯電話などに搭載されたRF(Radio Frequency)IDなどモノからの情報である。つまり,人間が直接介在することがなく収集された情報である点が,二十世紀型の情報空間知とは大きく異なっている。

p.154(中村道治)

日本の強みは,誠実,勤勉,かつチームワークの良い国民を擁していることにある。

使命感や倫理観を備えた人材の育成,活用は,ぜひとも発展的に継承されねばならない。このために,高邁な目標に向かって挑戦する気風や奉仕の精神を社会に醸成することがとりわけ重要である。